日経 春秋より 2017.9.26 『風』

安倍首相は一昨日昼下がり、行きつけの美容室に赴いている。きのう夕に予定していた衆議院解散の表明に備えて、勝負ヘアを整えたのであろう。
機先を制するかのように、小池東京都知事が新党「希望の党」の代表に就任すると記者会見した。
対決色はあらわである。
林立するマイクを前に知事のギラギラした物言いが目立った。「この指とまれ」風な寄り合い所帯の印象だった新党に、小池カラーで求心力が生まれるのか。
さまよう政権批判票の受け皿になれるなら、民進など既成野党を上回る支持を得る可能性もあろう。
選挙時に吹くという「風」の向きや強さは一変するやもしれぬ。
消費増税の使途変更、北朝鮮への対応などで首相は信を問うという。いわば大義である。議席の維持が目的の「自己都合解散」ではないと強調しているようだ。
国民が疑問を持ち続ける「森友・加計問題」では引き続き説明責任を果たすという。
審議なき臨時国会の冒頭解散の批判が上がらぬようにしてほしいものだ。
安倍首相も小池都知事も、強いリーダーシップで同志をまとめ、国政や都政で「一強」と呼ばれる地位を築き上げた。今後、衆院選で率いる党が対立するとなれば、
指導力や手腕が議席数という形でリアルい試される。「国難突破」とは時代がかった表現だが、その克服にはどの党がふさわしいか。
審判は事実上、始まった。