日経スポートピアより。 岩村明憲『プロの世界、格差も必要』

 
ヤクルトに入団したとき、18歳の僕が、八重樫幸雄2軍監督から最初に言われたのは
「2軍慣れしている選手とは行動をともにするな」ということだった。
2軍慣れ?最初はわからなかったが、よく見ると2軍の生活に甘んじて、絶対1軍に上がるんだ、という向上心を忘れた先輩がいた。
2軍でもまあまあの暮らしができるから、満足してしまう。怖いことだ。
日本の2軍がいかに恵まれているか。それがよくわかったのはメジャー1年目のことだった。
リーグ首位打者という勢いでデビューしたが、ヤンキースの井川慶投手から二塁打を打ったときに脇腹を痛め、マイナーで調整することになった。
しかも、それが3Aでも2Aでもなく、たまたま地元おフロリダにいたルーキーリーグのチーム。
1番下のクラスだ。食事は20センチほどの大きなパンで作ったチキン、ターキー(七面鳥)、ツナの3種類のサンドイッチから1つを選ぶ。それにリンゴが一個。
メジャーなら、クラブハウスの係に頼めばそ場で肉も焼き、オムレツも作ってくれる。その生活しか知らなかった僕には衝撃だった。
あれに比べたら、管理栄養士がついて質、量ともに十分な食事が用意される日本の2軍は幸せだ。
だが、それが「2軍慣れ」の元になる。1、2軍の間にはそれなりの格差があっていい。
メジャーに比べ、日本の選手が恵まれている点がいくつかある。日程や引き分け制度もその1つだ。
メジャーは少々の雨でもやむまで待って試合を始め、始めたら原則的に決着がつくまでやる。僕の経験で一番長く待たされたのは3時間。
午後7時開始の時間が10時になった。メジャーは6か月のレギュラーシーズンに試合を詰め込んでいて、日本と違って移動も手間だから、行った先で、とにかく試合を消化しないといけない。
選手にはきついが、各球団同じペースで消化していくので、順位が分かり安いなどのメリットがある。
日本の引き分け制度は選手にとっては楽だ。
しかし、勝負する以上、白黒はっきりさせたいという本能も選手にはある。球場使用の条件などで無理なら仕方ないとして、選手保護の為の引き分けは必要ないだろう。
怪我を防ぐためのコリジョン(衝突)ルールは日本生れではないが、これも選手の過保護につながりかねない。
野球は一種の陣取り合戦で、ホームで走者と捕手が交錯するのはやむをえない。
僕は楽天時代に西武の岸谷銀仁朗捕手と交錯して骨折した。セーフでよかったと思うだけで、あれも野球のうちだと僕は考えている。
実力社会ならではの格差を含め、仕事としてやるスポーツは厳しいものなのだ。

 独立リーグ・福島ホープス選手兼監督